2023.08.08
特別テーマ実践科目A「ムスリム・コミュニティ共生学Ⅰ」成果報告会
ハディ ハーニ(担当教員)
2023年春学期より新たに開講された特別テーマ実践科目「ムスリム・コミュニティ共生学Ⅰ」の成果報告会が、7月18日に開催された。本科目では、イスラームとは何か、また主に日本に住むイスラーム教徒(以下、ムスリム)が生活の中で抱えている様々な課題について知ることから始まり、その課題の解決法を立案し、最終的には実行に移すことを目標としている。
講義ではまず、イスラームとは何か、また日本におけるイスラームやムスリムの歴史について、主に輪読を通じて学んだ。日本のムスリム人口は10万から20万とも推計され、その多くは外国出身で、近年拡大傾向にある。経済や外交等、様々な観点からみても、彼らとの相互理解とこれに基づく共生の実現は急務と言えるが、日本の高等教育においては未だこうした実践的レベル、生活レベルでのイスラーム理解が進んでいるとは言い難い。本講義ではこうした現状を踏まえ、ムスリムとの共生の意義と必要性について考え、彼らと「出会い」、共生を実践することを目標としているという点を、参加者全員で共有した。
座学以外には和泉キャンパス構内の明大マートや食堂にてフィールドワークも実施し、ムスリムが安心して飲食することのできる食品・メニューについて、またその条件についても検討した。また代々木上原に位置する日本最大級のモスク、東京ジャーミイを訪問し、モスクの有する社会的役割や、ムスリムの信仰実践における多様性、具体的な礼拝の作法、併設された食品マーケットの視察等も実施した。
学期の後半には履修者は3つのグループに分かれ、日本のムスリム・コミュニティとの共生促進に貢献する目的で、それぞれの関心に沿ったプロジェクトが立ち上げられた。具体的には、明治大学におけるムスリム対応の現状についての調査を通じて、和泉キャンパスに礼拝スペースを設けることを目指すグループや、ムスリム諸国で広く親しまれているケバブのキッチンカーの誘致を通じて、ハラールの概念やその背後にある信仰について明大生に対し啓蒙することを目指すグループ、さらには明大各キャンパス周辺で学生が立ち寄れ、かつムスリムと交流することもできるハラール料理店の紹介メディア製作を目指すグループがあった。
これらのグループの今学期の成果報告の場として迎えたのが、今回の成果報告会である。本科目は通年での運営を計画しているため、本学期は主に課題の洗い出しからプロジェクトの構想、立ち上げ、事前の調査までを実施した。今学期末には、その成果をスライドを用いたグループ・プレゼンテーションによって発表した。
各グループとも、受動的な座学に留まらず、「実践科目」の名にふさわしい主体的なグループワークやフィールドワークを通じた学びの成果が感じられるプレゼンテーションとなった。いずれのプロジェクトにおいても、実際にモスクやレストランでの実地調査、大学当局との折衝等の実践的活動を踏まえたうえで検討されており、高い実践性とそれゆえの社会的意義が認められた。また商学部では決して多いとは言えないグループワークそれ自体の経験も、履修者にとって大いによい刺激となったことがうかがえた。そのうえで、来学期に向けてより具体化・精緻化すべき点や、情報を集める際のポイントや方法論について、またイスラーム思想や信仰の実態等について、活発な意見交換が行われた。
プレゼンテーションや履修者の所感からは、本講義を通じて、ムスリムとの共生を単に非ムスリム側からの慈善事業のように捉えるのではなく、相互の関わり合いを通じて、その認識や行動の変化を引き出し、それによって真の意味での共存共栄を実現することの重要性が共有されたことが感じられた。継続的な実施を通じて、そうした活動がさらに拡大することを期待したい。