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2020.07.01

【2019年度第1回商学部スノーピーク研究・実践奨励金 成果報告書①】コミュニティーエネルギーを通じた地域再生―石徹白地区における地域づくりを事例に―

中川ゼミナール12期 2年  有本圭孝 伊藤大喜 伊藤照周 富田大貴 萩原友飛

 

Ⅰ はじめに

 本研究のきっかけは、総合学際演習(中川秀一教授担当)の授業で輪読を行っていた、大江正章さんの著書『地域に希望あり』で岐阜県郡上市白鳥町石徹白地区(以下、石徹白)における地域おこしの事例を知ったからである。したがって、研究対象は、石徹白における小水力発電を中心とした地域づくりであり、小水力発電施設の視察や、石徹白に暮らす方々、主に移住者の方へのインタビューを行った。インタビューの音声を録音し、内容を文字に起こすことで、住民の方々の考えを何度も振り返り、考察を行った。現地調査は、2019年9月27日~29日、10月25日~27日の計2回実施した。

 

Ⅱ 石徹白地区の概要

 石徹白は、白山南麓に位置し、白山信仰の拠点として栄え、近世まで、どの藩にも属さず、年貢免除、名字帯刀が許されていた。標高およそ700メートルにあり、水分神の郷と呼ばれていることからもわかるように、石徹白を含む郡上市は、古来より豊かな水源に恵まれてきた。水力発電に必要な落差と水量を併せ持つことから、この石徹白では、大正13年より、全戸出資のもと水力発電が行われていたそうだ。

 

Ⅲ 調査内容

 現地調査に先立ち、私たちは、文献、統計、インターネットによる事前調査を行った。その結果、インターネット上では、小水力発電による地域おこしの成功という側面ばかりが取り上げられていることに疑問を感じた。そこで、石徹白に暮らす人々が、小水力発電に対して、どのような考えを持っているのか、また、小水力発電の発電以外の効果は何かなど、事前調査より得た課題を各々が設定し、インタビュー調査に臨んだ。以下、インタビュー調査を詳述する。

 現在、石徹白では4機の小水力発電機が稼働しており、集落全体の使用電力のおよそ230%を発電することができる。さらに、売電益を用いて、耕作放棄地の保全を行っている。しかし、小水力発電の導入には、億単位の資金が必要であり、地域住民だけで成し遂げるには限界があった。そこで、発起人会を開き、地域住民の合意のもとで、行政の参入を受け入れた。発電施設の設置資金に関しては、約75%を行政が負担し、残りの約25%を住民の出資や農協が借金をすることで工面した。また、こうした地域住民の大きな決断があって、運用に至った小水力発電だが、あくまで持続可能な地域づくりを目指す上での、1つの手段であって、目的ではない。現在、石徹白で唯一の小学校である、郡上市立石徹白小学校の生徒総数は9名である。地域の人口維持のためには、引き続きUIターンが必要であり、小水力発電だけで課題の全てを解決できるわけではない。

 次に、移住した方へのインタビューの結果をまとめる。インタビューの中には、いくつかの共通点があった。その1つとして、都会で暮らすことへの危機感が挙げられた。震災などによる災害によって、エネルギーや水、食料の供給が突如として断たれるという潜在的な危うさが、都会には存在する。一方で、石徹白には、田畑があり、食料を自給することができ、かつ、水資源も豊富で、エネルギーも住民主体でまかなっている。農業用水に関しては、明治時代の先住の人たちが手掘りした水路を地域全体で管理、維持を行うことで、今なお活用している。石徹白には、生活の基盤が整っていることに加えて、古くからの生きる知恵や精神性、石徹白の人の言葉を借りると「甲斐性」が根付いている。こうした石徹白での暮らしに、都会にはない安心感を抱き、移住に至ったという。

 今回の調査で、石徹白地区の小水力発電は、地域の公共物である農業用水を用いることで、移住者を含め、地域住民を巻き込んで取り組むことができる自然エネルギー活用事業であることが分かった。生活に必要な食料だけでなく、エネルギーをも自給して地消する、石徹白での暮らしは、SDGs達成への先駆け的な事例でもあるのではないかと、2度の現地調査を通じて感じた。

※この研究は,株式会社スノーピーク社長・山井太様(1982年商学部卒業)からの寄付を原資とした「商学部スノーピーク研究・実践奨励金」の給付を受けて実施されました。

石徹白番場清流発電所
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