研究

2016.04.14

高橋昭夫教授の著書が連合駿台会学術賞を受賞しました

福田 康典

この本は、インターナル・マーケティングと呼ばれる現象について書かれた研究書です。マーケティングというと、一般には、企業とそのお客さんとの関係を扱うことが多いのですが、このインターナル・マーケティングでは、企業で働く人たちを一種のお客さんとみなし、企業とこうした人たちとの関係を研究します。企業の外側ではなく内側にいるお客さんに向けたマーケティングという意味で、インターナル(内側の)という言葉がつくのです。

インターナル・マーケティングを、誤解を恐れずに非常に簡単に表すと、従業員の働きやすい環境を整備し、それが製品やサービスを購入してくれる外側のお客さんの満足度をも高めるようにするために、企業は何をすればいいのか、ということを研究する領域だと言えます。とはいえ、その内容は決して簡単なものではありません。一口に「働きやすい環境」と言っても、それは人によって様々でしょう。自動車を生産し販売している人たちと美容院でヘアカットサービスを提供している人たちとでは、働きやすさの定義も働きやすい環境の要素も異なってくるでしょう。同じ会社に勤めていたとしても、製品開発部門で働いている人と販売部門で働いている人とでは、働きやすさが違うかもしれません。また、働きやすい環境を整えるためには、働く人の自発的な献身(これをコミットメントなどと呼んだりします)や新しいことにチャレンジする気持ちを高め、そこで働いていることに誇りが持てるような職場環境を作っていく必要がありますが、そうした環境は、単に給与を増額したり休日を増やしたりするだけでは作れません。従業員同士のネットワークづくりなども含め、企業は様々な視点からこうした環境づくりに挑戦しなければならないのです。インターナル・マーケティングとは、こうした複雑な現象をモデル化しながら、従業員という内部市場の資源としての重要性をより明確にし、そうした資源を構築していくために企業がどのような視点からどのようなことを行っていくべきかを考えていく学問なのです。

インターナル・マーケティングについて書かれた本や論文はこれまでにもありましたが、多くのものは欧米諸国の企業や従業員を調査対象にしているものでした(もちろん、そのほとんどは英語で書かれています)。つまり、日本の企業において見られるインターナル・マーケティングを考察した研究というのは非常に珍しいのです。この本では、日本の企業に務めている多くの人たちを対象に、アンケート調査やヒアリング調査という技法を使ってデータを収集し、そのデータを様々な統計解析法にかけることで、日本におけるインターナル・マーケティングのモデル化を行っています。働きやすさや働き方というものが文化によって大きく異なるという点を考えると、この本に書かれている内容は、インターナル・マーケティングの知見を日本の人たちが学び、日本の企業で利用しようとする際に、非常に貴重なものになると言えるでしょう。

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