ゼミ

2023.03.22

農学部・池田研究室 × 商学部・浅賀演習室 ―ラーニングスクエアでの合同ゼミで共創の学び―

浅賀 宏昭(科目担当教員)

 私の総合学際演習室(浅賀演習室)は、生田キャンパスで学ぶ農学部の生産システム学研究室(池田研究室)の皆さんを和泉キャンパスのラーニングスクエア(LS)の見晴らしのいい教室にお招きして、合同ゼミを開催した。教室のアメニティの良さにも後押しされ、高い学びの効果が期待できる共創の雰囲気を得ることができたので、その概要を報告する。

 生田キャンパスには植物工場の研究開発・技術普及および人材育成を担う全国8拠点の一つ、明治大学植物工場基盤技術研究センターがある。経済産業省の平成21年度先進的植物工場施設整備費補助事業によるもので、研究組織としての特徴は農商工連携である。センター長を農学部の池田 敬教授が務め、センター員と運営委員には4学部から専任教員が名を連ねて参画している(商学部からは鳥居 高教授と浅賀 宏昭)。

 SDGsの教育と研究に力を入れている商学部には、もとより食の問題への関心が高い学生が多かった。適切な食が健康をもたらすので、SDGsの17の目標のうち2と3は強い関連があることは自明である。浅賀演習室には植物工場に関連したテーマで調査・研究を希望する学生が、毎年のように入室してくるので、生田キャンパスでセンターの見学会を実施し、その都度、池田先生に解説していただいてきた。これに応えるべく私は、和泉キャンパスで農学部生に何か提供したいと考えていたが、ほどなくして新型コロナウイルス感染症拡大の問題が発生し、なかなか踏み出せずにいた。

SDGsの目標2と3のロゴ

 しかし2022年になると状況が少し変わった。学生が自らのテーマにしたがって他の学生や教員と共に学ぶ空間(ラーニング・コモン)を創るというコンセプトのもとに設計された新教育棟LSが竣工し、春学期から対面授業に使えるようになった。そして秋学期になると首都圏では感染症収束の兆しが見えたのだ。この機を逃すまいと考えた私は、LSの教室に農学部池田研究室の皆さんをお招きして、浅賀演習室の学生による口頭発表を聴いていただく形で合同ゼミをしたいと提案した。センター長の池田先生は、農学部では教務主任で多忙であるにもかかわらず、二つ返事で承諾してくださった。

 ただし感染症については、収束傾向は続いたが、終息はかなり先になると予想できた。リスクは未だあるから、発表予定者が感染しないとも限らない。念には念を入れ、発表予定者2名のところ3名の学生に発表の準備をお願いして、万全を期した。実際、前日には複数の欠席連絡がメールで届いたので冷や汗をかいたが、発表予定者からではなく、胸をなでおろした。

 当日はよく晴れて暖かくなった。池田先生は、生田キャンパスで外国からの視察団訪問に対応してからという過密スケジュールにもかかわらず、開始予定時刻より早く和泉に駆けつけてくださった。農学部生の皆さんも早めに到着されたので、合同ゼミを定刻に開始できた。

当日のプログラム。口頭発表は20分とし、質疑応答を十分にするため10分とやや長めにした。レジュメとは別に全員からコメントをいただけるようリアクションペーパーを配付し、後で回収した。

 まず私から短い挨拶をしたあと、学生の皆さん全員に自己紹介をしていただいた。両学部から2年生と3年生が参加していることを確認できた。座長を商学部3年の軽部さん、タイムキーパーを商学部3年の藤田さんに、それぞれお願いして口頭発表を開始した。

 発表1題目は商学部3年の上村さんであった。植物工場経営における市場、マーケティング、流通、人材に焦点をあてた内容は、農学部生の皆さんにはとても新鮮に映ったようであった(提出されたリアクションペーパーより)。続いての発表2題目は商学部2年の辻角さんで、未来の植物工場の理想形の一つとされているアクアポニックスのテーマであった。聴いている学生に対し、用語に関する予備知識の確認のための質問をするなどの工夫が凝らされた発表であった。

 農学部生の皆さんがどのような質問をするのか、私には興味があった。自然科学の因果関係を第一に追究する実験的研究とは異なり、学際系の社会科学の研究はさまざまな要素が複雑に関係してくるので結論が明確でないからだ。このため議論が大切なのだが、単なる批判しか出ないのではという懸念があった。しかしそれは杞憂であった。詳細は省くが、発表内容の検証のために有効な質問が多く出たので感心した。この点は商学部生にもぜひ見習ってもらいたいと思った次第である。

 有難いことに、いずれの発表にも池田先生から励ましのコメントをいただいた。もちろんリップサービスも含めてだろうが、何しろ植物工場研究の第一人者のコメントである。商学部生には、自分たちの研究発表内容がオーソライズされたと感じたようであった。自分たちがすべき研究の意義や方向性を再確認できて、やる気がわいた学生もいた(リアクションペーパーより)。学生の口頭発表への指導ではダメ出しが多いと自認している私には、コメントの仕方も勉強になった。

 2題の発表の後、僭越ながら、私から工場野菜の販売とフードシステムについて解説させていただいた。生鮮食品の需要の価格弾力性が低いことや、植物工場経営においては市場外取引が有効だが卸売市場の利用には別の意義があることなどを話した。商学部生には既習の内容で退屈だろうから簡潔にと思いつつ始めたが、農学部生の皆さんの前向きな姿勢につい応えたくなり、予定時刻を超過して話してしまった。

 プログラム終了後は学生間交流のための時間をとった。池田先生と私は廊下に出て、今後について確認し、このような学びの効果の高い意義ある取り組みは継続していこうという点で合意した。「新しいぶどう酒は新しい革袋に・・・」の言葉どおり、農学部と商学部という専門性の異なる学生らをLSの新教室で初めて引き合わせて共創の学びを醸成しようとした今回の試みは、成功裡に終えることができたのだった。

 解散直前に撮った記念写真には、充実したイベントであったことが窺える良い表情が並んだ(よく見ると、次回は合同で懇親会も・・・と期待している笑顔もあるようである)。

記念写真。後列右から3人目が池田先生、4人目が浅賀。「マスクの着用は個人の判断が基本」となる日が近かったが、今回は世相を反映させて記録すべく全員でマスクをしたまま撮影に臨んだ。露出オーバーで白くなってしまったが、右上の窓の外は青空であった。(商学部2年池田さん撮影)

 最後に、和泉キャンパスまでご足労くださり、また研究発表に有益な質問やコメントをくださった、農学部の池田 敬教授ならびに池田研究室の学生の皆さまに深謝いたします。

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