授業

2021.09.29

特別テーマ実践科目 「SDGs調理科学」授業ならびに成果報告

浅賀 宏昭(担当教員)

 2020年度から春学期に開講しているこの科目では、SDGsの目標2「飢餓をゼロに」、すなわち食料問題の解決につながることが期待される「大豆を主要材料とした新メニュー」の研究開発を行っている。2021年度の春学期は、1年生2名、2年生9名の履修生が、オリジナリティあふれるメニューの開発を目指して取り組んだ。

 期せずして、今学期も感染症対策を万全にする必要が生じた。そもそも食中毒のリスクが高い季節であるし、調理においては刃物も使うから、安全確保のためにしなくてはならないことはたくさんある。担当者としては気が重かった。実習での一挙一動に指導者の視線を感じれば、学生も窮屈に感じて嫌になるのではないかと危惧していたのだ。しかし、途中で脱落する学生も出ずに、最後の成果報告会まで無事にやり遂げることができて安堵した。

 5月までに、世界が直面している食料問題とその解決法、大豆の栄養学や期待される機能性、おいしさの生理学、さらに調理科学の基礎や関連技術、官能評価の方法などについて駆け足で講義した。毎年のことだが、商学部生は、食材の特性、栄養学、生理学、調理科学、食品衛生などの知識をほとんど持っていない。しかし、固定観念も無く、新メニューを考える発想にも柔軟性があるので、担当者としてもやりがいを感じることが多い授業である。

 6月には、外部専門家支援委員の塚原正俊先生(株式会社バイオジェットCEO・千葉大学非常勤講師)にオンライン(Zoom)で商品開発に関する実践的な指導を受けることができた。塚原先生は、商品開発の経験が豊富なバイオベンチャー企業の経営者で、調理師免許もお持ちであることから、調理実習を伴う授業では指導をお願いしている。今年も残念ながら対面ではなくオンラインでとなったが、その特性を活かし、会社のある沖縄から2週連続で指導をしていただいた。これまでの経験から、この指導を受けたころから学生が主体的に動き始めるので、今年も期待していたところ、メニューの提案のころからアイディアを多数出し合って意見を交わすようになった。そして7月以降のレシピの改良においても、各班メンバーの創意工夫で乗り越えてくれた。

 さて今回は、4班に分かれて「ソイベジバーガー」、「ピリ辛!麺そーれ」、「大豆米から作る三種のお肉ビビンバ」、「ブリトーde大豆ミート」の完成を目指した。7月の定期試験前までに完成させることが難しかったので、今年は8月上旬に集中して実習を行うことでようやく成し遂げることができた。

緊張感漂う実習での調理風景(浅賀撮影)
「ソイベジバーガー」(江澤さん撮影)
「ピリ辛!麺そーれ」(浅賀撮影)
「大豆米から作る三種のお肉ビビンバ」(有田さん撮影)
「ブリトーde大豆ミート」(左は若林さん撮影、右は石井さん撮影)

 何かと「楽しそうですね」と言われることが多い授業である。確かに、新しいものをつくるので楽しいことが多いし、料理はもちろん達成感も味わえる。しかし、家で料理を作る楽しさとは質的にかなり違うことをここで指摘しておきたい。

 自分や家族の食事なら味見しながら作ればよいし、記録をつけなくても良い。それこそ出たとこ勝負、行き当たりばったりで良いから気楽さもある。偶然が重なって美味しいものができることもあれば、その逆もあるだろう。同じものを作ったつもりでも味も見た目も少しずつ変わるから、それも楽しめばよいのだ。これに対してメニューの開発では、第三者が再現できるようにレシピを完成させねばならない。だから、味見・試食を慎重に繰り返しつつ記録も取る。ところがこれは、やればやるほど何が美味しいのかわからなくなる作業だ。そもそも美味しさには主観も入る。だから、試食を伴う検証からして班のメンバー数人で行い、それを記録しては分析して、その結果を仮説にフィードバックさせて修正し、また検証するという地味な作業の繰り返しになる。自己満足では許されない、チームでのモノづくりの研究開発の厳しさを体験する、そんな授業なのである。

 ところで、最終的にはどのメニューもなかなか美味しいものになるのだが、それがどんな味なのか、きちんと官能評価をして記録しておかねばならない。ここで一つ工夫が要る。調理した者がパネリスト(評価をする人)になると、贔屓目の評価になりがちであるからだ。このため、自らが調理しないメニューのパネリストをそれぞれ分担して実施することにしている。評価に主観ができるだけ入らないようにするためである。評価結果は、パネリスト名を伏せて、調理した班に提供されるようにしているので、厳格さと客観性はある程度は保たれていると考えてよいだろう。

 成果報告会は8月13日の15時よりオンラインで開催した。完成した4つのメニューには、それぞれ鋭い質問や有益な助言をいただき、たいへん有意義であった。詳細は省くが、今回は材料費(直接材料費)が少し高かったメニューがあった。この点は優先的に検討すべきこととしていなかったので合格点を出したが、経済性を確保することが今後の課題の一つとして浮き彫りになったと言えるかもしれない。「飲食店の原価率は30%が目安」と知り、飲食店のメニューを改めて考えてみると非常に良くできていると思うという感想を寄せた学生も多かった。

成果報告会での1コマ(上段左端が塚原氏、その右が浅賀)

 最後に、この授業は多数の方々のおかげで成り立っていることを改めて確認してしめくくりたい。外部専門家支援委員の塚原正俊先生には2回の授業のほか、成果報告会においても丁寧かつ建設的なコメントを多数いただいた。自然科学実験準備室の嘱託職員の加藤さんと大内さんには、実習において同準備室のシンクを使わねばならない関係で、たいへんお世話になった。また、調理器具・材料の調達においては、職員の皆さんに宅配便の受け取り等で御助力いただいた。担当者として心より御礼申し上げる次第である。また履修生の皆さんには、今後も機会があればこの授業の取り組みにご協力いただきたく、ここでもお願い申し上げる。

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