卒業生訪問

2021.11.25

【卒業生訪問】 大野和彦さん(1982年卒業)

出見世信之(担当教員)

11月22日、出見世ゼミナール17期生が商学部の卒業生で、海光物産株式会社代表取締役社長である大野和彦さんをZoomで訪問しました。海光物産は、国際NGOのオーシャン・アウトカムズと協働で、日本で初めてFIP(Fishery Improvement Project:漁業改善プロジェクト)に取り組んでいます。大野さんは、株式会社大傳丸代表取締役で漁労長でもありながら、持続可能な漁業について講演なども行われています。今回は、漁のない日に訪問させていただきました。


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Q: 商学部を卒業されて、漁業の道を進んだのはなぜですか?
A: 5歳の時に父親に連れられ海に行き、魚を見てワクワクしました。しかし、明治大学附属明治高校を卒業する頃には、東京湾が疲弊し、漁業は親の代で終わりだと思うようになっていました。そこで、世界を相手に商売をしようと商学部に進学したのですが、商学部を卒業する頃には、東京湾でイワシが再びとれるようになりました。そこで、株式会社大傳丸に入社しました。

Q: 海産業を営む上で、環境の変化をどのように捉えていますか。地球温暖化などに対しては、何か取り組みを行っていますか。
A: 40年前の東京湾では、イワシ、マコガレイなどがとれましたが、現在は、クロダイ、さわら、太刀魚などがとれるようになっています。これは海水温が上昇したことが原因です。海水温の1度上がると、気温では4度程度上がると言われていますので、地球温暖化を実感しています。会社では、フォークリフトをガソリン車からバッテリー車に変更し、CO2を83%削減しましたが、船やトラックについても電気駆動に変えたいとも思っています。また、マイクロプラスチック問題では、海洋ゴミが4割を占めると言われているので、生分解性の発泡スチロールの箱で納品するようにの変更を進めていますが、コストは10倍になるので、まだ、一部での導入に留まっています。

Q: FIPに取り組もうと思ったきっかけは何ですか。FIPに取り組み、売上などで変化はありましたか。
A: 2020年に東京オリンピックが開催されることになり、地元の食材を提供するために準備を始めたところ、資源の管理ができていないと言われました。そのため、持続可能な漁業の普及に努める国際非営利団体であるMSC (海洋管理協議会)からの認証を目指し、オーシャンアウトカムズの方とFIPに取り組むことになりました。MSCは、日本国内よりも、北米で広く知られているため、その結果として、ウォルマートの子会社である西友や外資系ホテルとの取引を始めることになりました。なお、2021年に開催された東京オリンピックでは、マリンエコラベルジャパンの認証取得が認められ、納品することができました。漁業関係の認証の一部がこちらのスライドです。


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 日本の消費者は価格志向で、かつ、絶滅危惧種の購入を避ける割合は先進国で最低と言われています。現在でも、多くの消費者価格を中心に選ぶことは変わっていません。「100年漁業継続プロジェクト」を掲げ、瞬〆すずきの出荷数量も抑制しています。自ら規制をかけることになるので、何もしなければ収入が減少します。そのため、現在は、鮮度を追求し、トレーサビリティを高め、高い価格で仕入れてくれる高級店と直接に取引を行っています。体験購入を支援するMakuakeを利用して、ミシュランの星を獲得しているフレンチ・ラぺと協力して、瞬〆すずきのパイ包み焼きを提供しましたが、知り合いが半分ぐらい購入してくれましたが、残りは知らない方が購入してくれました。SNSの利用の効果やEC販売のツールの強さを実感できました。消費者が価格を中心に選ぶことは変わっていませんが、FIPのメリットが出てくるのはこれからと考えています。


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Q: 持続可能性の観点にから、今後どんなことが必要だと思いますか。若者の魚離れについて、何か対策を考えていますか。
A: 水産物は、将来世代を含むすべての人の共有財産であることを発信する必要があります。また、より多くのシェフや料理人、スーパーなどの販売員の方々とも、魚の価値を共有する必要があります。他の漁業者には、FIPに取り組むことでメリットがあることを情報共有し続けようと思います。現在、全国から見れば一部の地域ですが、小中学生を対象に漁業の持続可能性に関する教育や食育を行っています。千葉県の学校給食に、2020年に東京オリンピックが開催されていれば、納入する予定だった1トンのスズキのフィレを提供しました。

Q: 経営者として意識している点は何ですか。組織に対する発信において工夫されていることは何ですか。
A: 従業員を重視しています。見た目は柄が悪い者もいますが、皆、仕事は真面目に取り組んでいます。彼らに、持続可能な漁業の意識を持ってもらうことも大切です。経営者からのやらされ感を持たせないよう、LINEで意識を共有しています。

商学部に入学したのは、世界を相手に商売をしたかったからだとおっしゃっていましたが、持続可能な漁業への取り組みは正にそれを実現するものだと思いました。私たちも、持続可能な漁業を認知する方法の一つは、環境問題をメディアが多く取り上げることや幼少期からの学校教育だと思っていました。「魚は自分の価値を知らないので、漁師はそれを伝える義務がある」「持続可能な漁業にはコラボが大切で、結果を残せば仲間が増えるはず」という大野さんの言葉が印象に残りました。ネットワークの重要性を実感しました。シェフの方や色々な業界の企業の方、外国の人々など、本当に幅広い人脈をお持ちだからこそ、新たな取り組みの実現や新しい発見ができると思いました。経営者としても、漁労長としても忙しい生活を送られている中で、私たちの訪問を受けてくださった大野さんに心より感謝いたします。

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