授業

2023.09.13

特別テーマ実践科⽬A「SDGs調理科学」成果報告会

浅賀宏昭(担当教員)

SDGsの目標2の「飢餓をゼロに」は食料問題の解決そのものである。現代の食料問題の特徴は「先進国の飽食、途上国の飢餓」と言われる。先進国では肉が多く食べられており、その肉を得るために大量の穀物が飼料に使われているから問題となるのである。仮に先進国の私たちが肉の代わりに穀物を直接食べるならば、より多くの人に食料を分け与えることが可能になるので、この問題は解決に向かうと考えられる。

ほとんどの穀物は栄養的に肉には劣る。しかし、大豆は肉にほぼ匹敵するタンパク質を含み、しかも健康維持に貢献する機能性成分も多く含んでいる。そこで、本授業は2020年度からSDGsの目標2の「飢餓をゼロに」、すなわち食料問題の解決につながると期待される「大豆を主要材料とした新メニュー」の研究開発をテーマに開講してきた。

 

2023年度の春学期は、1年生3名、2年生3名、3年生1名が、新メニューの開発を目指して、講義と実習を組み合わせたハイブリッドな授業を受講した。5月までに、世界が直面している食料問題とその解決法、大豆の栄養や機能性、おいしさの生理学、さらに調理科学の基礎や関連技術、官能評価の方法などについて学び、この研究の意義と手法を学ぶことができた。

 

昨年度までの実績を考慮し、大豆ミート春巻(たまにはご褒美!大豆の力で健康春巻)と大豆コロッケ(ホクホク!ソイコロッケ)の調理に取り組んだ。幾つかの班に分けることはせず、全員でこの2種類のメニュー開発を担当したことは、今年度の特徴である。

1_作業を分担して調理しているところ(浅賀撮影).jpg

作業を分担して調理しているところ(浅賀撮影)

2_フライヤーを用いて大豆ミート春巻を175℃で揚げているところ(浅賀撮影).jpg

フライヤーを用いて大豆ミート春巻を175℃で揚げているところ(浅賀撮影)

どちらのメニューもターゲット層を①ヴィーガンの人、②2030代のダイエット志向の女性、③4050代の肥満を気にする健康志向の男性として、開発を目指した。販売チャネルは、キッチンカ―、スーパーの惣菜コーナー、コンビニのホットスナックを想定して取り組んだ。

 

春巻きは、中に何を入れるかで味が大きく変わる。標準的な春巻きは、豚肉、タケノコ、春雨、ニラなどで具とするが、今回はキャベツ、大豆ミート(マルコメ)、油揚げを主要な材料として使ってみた。キャベツを使うことで歯ごたえは良くなるが、試作品では大豆の臭いが少し残って気になった。そこで少量の味噌、ごま油、ニンニク等を加えて改善を試みた。良い匂いのある食材を加えることで、大豆臭のマスキングを狙ったのである。この狙いは成功し、何回かの試行錯誤の後で、京王ストア明大前店の市販品を比較対照として全員で官能評価を行った。その結果、総合評価(5段階評価)の平均値で市販の春巻きが3.29に対し、大豆ミート春巻きが4.42となった。

 

一方の大豆コロッケは、当初、大豆ミートメンチカツを目指して開発を開始したが、食感がコロッケに近いことから、名称も含めて変更したものである。水切りした木綿豆腐、玉ねぎ、大豆ミート(マルコメ)、おからパウダーを主要材料として試作を重ねた。その結果、玉ねぎの加熱の程度で甘みが大きく変化すること、おからパウダーを多めに使うとパサつくことなどに気づいた。そこで、これらの加減を試行錯誤することで至適な条件を見つけることができた。官能評価では、市販のポテトコロッケが手に入らなかったので、ジャガイモからコロッケを作って比較対照させることにした。その結果、総合評価(5段階評価)の平均値でポテトコロッケが5.0に対し、大豆コロッケが4.17となった。

3_揚げる前の大豆コロッケ(履修生撮影).jpg

揚げる前の大豆コロッケ(履修生撮影)

4_官能評価に供される揚げたての大豆コロッケ(浅賀撮影).jpg

官能評価に供される揚げたての大豆コロッケ(浅賀撮影)

これらが商品として成り立つか否かを検討するために、原価の計算をした。その結果、大豆ミート春巻は110円/個、大豆コロッケは105円/個であった。これだと原価率を高めの75%に設定しても、販売価格はそれぞれ150円/個と140円/個となり、競合する商品の価格と比べてやや高いと考えられた。

 

以上のように、本授業における成果として、大豆をおいしく食べるための2種類のメニューの開発をすることができた。特に大豆ミート春巻は、肉が使われている市販品よりも官能評価の結果が高く、完成度が高いと思われた。一方、大豆コロッケは、比較対照として作製したジャガイモコロッケの出来が良すぎて(?)官能評価が満点であり、これと比べると官能評価は多少低かったが、タンパク質含有量などの栄養面において優れていると考えられるので、開発した意義はあると考えられる。2つのメニューに共通した今後の課題を一つあげるとすれば、材料費を抑えることであろう。

 

成果報告会は、昨年まではオンラインでの開催であったが、今年は84日の15時より対面で開催することができた。その内容は自然科学実験準備室の村野さんにも聴いていただいた。また記録を残すために動画撮影をすることで、適度な緊張感のある報告会となった。このような舞台で、改めて質疑応答をすることで、新たな気づきを得ることもできて、大変有意義であった。

 

最後に、本授業の実習では自然科学実験準備室の大内さんと村野さんに、準備や片付けで、たいへんお世話になった。さらに調理器具・材料の調達においては、職員の皆さんに宅配便の受け取り等で御助力いただいた。担当者として心より御礼申し上げる次第である。

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