2025.12.03
ゲストスピーカーによる特別授業実施報告:塚原 正俊氏【テーマ:次世代シーケンサ出現の衝撃と進化 -研究のパラダイムシフトと実生活への波及-】
浅賀 宏昭(担当教員)
1.実施日
2025年11月17日(月)17:10 ~ 18:50
2.実施場所
和泉図書館ホール
3.科目名
総合学際演習(2年)
4.ゲストスピーカー
塚原 正俊氏(株式会社バイオジェット
5.実施内容
2003年に終了したヒトゲノムプロジェクトでは、米国人男性1人分のDNA塩基配列を解読するのに十数年の年月と30億米ドルのコストがかかった。ところが最新のNGSを使えば、わずか数日で10米ドルのコストで済む。実に、千分の1以上の時短と3億分の1のコストダウンである。NGSがパラダイムシフトをもたらしたと言われるのは、このような定量的な裏付けもあるのだ。
ほとんどのバイオベンチャー企業が数年で消えていくが、塚原氏は沖縄で2011年に株式会社バイオジェットを起業して、NGSはじめ多くのテクノロジーを駆使して実に14年以上も維持してきた。彼の優れた経営手腕という観点からも、商学部生にぜひ聴いてもらいたいとの思いから企画したのが本授業である。
紅葉が舞う日の夕方、およそ百名の学生が集まり、熱気を感じる中での授業となった。塚原氏は大学院を修了後、明治乳業株式会社(現・株式会社明治)等の研究所でさまざまな基礎研究のみならず商品開発研究もされてから、バイオジェットを立ち上げられた。これらの経験も交え、沖縄で起業した理由、沖縄の地の利なども含め、経営に関することから話をされたので、商学部生には聞きやすかったであろう。そしてバイオジェットでフルに活用されているNGSの特徴と、その応用例についての紹介とともに、深い解説をしていただいた。
内容は、NGSが公衆衛生(感染症対策)、個別化医療(個人に合わせた医薬品の処方)、食の安全・安心(原料やアレルゲンの確認、知的財産権の検証)、そして環境保全(自然保護政策への基礎データ提供)等に多大な貢献をしていることなど、多岐にわたるものであった。特に沖縄の単式蒸留焼酎である泡盛(米を原料として、黒麹菌を用いた米麹である黒麹によってデンプンを糖化し、酵母でアルコール発酵させたもろみを単式蒸留器で蒸留して製造)については、名前しか知らない学生がほとんどであったが、NGSの商品開発への応用例が印象に残った。まず、多数ある黒麹菌の株の分析を行い、そのなかから系統的に最も離れた古(いにしえ)の黒麹菌株を発見したという。これだけでも学術的に意義があるが、これを用いて新たな商品「琉古株仕込み 琉球大学の泡盛」の開発に成功したというのだから、筆者のような酒飲みはロマンを感じずにはいられない。商品を売るにはそのものの品質の高さに加えて開発者がその経緯を語るナラティブがあるとよいと聞いたことがあるが、これはまさにその例であろう。
リアクションペーパーには「幅広い分野に応用例があり興味深かった」「今後、NGSを超えるシーケンサは出てきますか?」などのほかに、「泡盛は(中国の)白酒と似ていますか?」「次の合宿で泡盛を皆で味わうのが楽しみ」「泡盛を早く飲みたい」などの記載もあった。
1、2年生は20歳未満の学生が多いので、彼らへの酒類の話題提供には工夫も不必要であろう。酒を濾紙に染み込ませて風乾すると、特有の香りが紙に残るので、これを短冊形に切って配付して、次回の授業でとりあえず泡盛の香りだけ感じてもらおうなどと考えている。



