2026.07.01
ゲストスピーカーによる特別授業実施報告:安成哲三氏(総合地球環境学研究所名誉教授、京都気候変動適応センター長)『地球・地域の超長期的な未来可能性をめざして ー「気候変動の緩和・適応」から「気候・生物圏の共生」へパラダイム転換をー』
森永由紀(担当教員)
「地球温暖化」の傾向は、人間活動による温室効果ガスの増加に起因していることは疑いないとされている(IPCC, 2021)。安成氏は、日本では、「緩和」と「適応」を柱とした気候変動対策が進められており、特に緩和策では脱炭素を重視した政策が中心となっているが、人為的な温室効果ガスの排出だけでなく、生物圏が気候に果たす役割、特に光合成による炭素固定の重要性にも着目すべきであると指摘した。そして、気候生態系モデルや高精度の観測データを活用し、全球および地域レベルで生物圏の役割を評価することで、気候・生物圏共生系と調和した人間活動を目指す必要性を述べられた。そのためには、人類を含む生物が生存の基盤としてきた地球がどのような惑星であるのかを地球史から捉え直し、持続可能な未来の実現に向けて人類が果たすべき役割を考えることが重要であるとして、地球と人類の未来を展望する壮大な視点から講義が展開された。
講義内容は主に気候学や生態学の知見に基づくものであり、学生にとっては馴染みの薄い分野であった。しかし、安成氏が『環境情報科学』(54-2,2025)に掲載した論文を事前に読み、学生から寄せられた質問を講義前に安成氏へ届ける機会を設けたことで、講義後の感想文からは比較的高い理解度がうかがえた。以下では、学生のコメントにも多く見られた印象的な内容を紹介する。
講義では、地球表層圏を循環する炭素の流れの中で、生物圏(陸域および海洋生態系)が大気中のCO₂を吸収・固定する重要な役割を担っていること、そして人間活動がその機能にさまざまな影響を及ぼしていることが説明された。一方で、社会では人間活動による炭素排出量の削減に関心が集中しており、生物圏の機能や保全の重要性が十分に考慮されていないこと、それが生物圏への脅威となる可能性があることも指摘された。また、過去約5億年にわたり、生物圏の光合成活動によって大気中のCO₂濃度は約2000ppmから約200ppmまで大きく減少してきた一方で、人類は産業革命以降、その濃度を再び上昇させているという説明は、多くの学生に強い印象を与えた。さらに、生物圏は太陽放射の増加による地球温暖化を抑制する方向へ進化してきたことや、地球の気候・生物圏相互作用系の寿命は、太陽活動の変化を踏まえるとあと1~5億年程度と予測されることも紹介された。最後に、人類はこの気候・生物圏相互作用系を理解できる唯一の知的生命であるという自覚を持ち(人間原理)、自らの生存基盤であり存在理由でもある地球の自然と共生しながら、その寿命を全うできるよう持続可能な社会を築いていくべきであると締めくくられた。



