授業

2026.09.28

「イスラーム世界実践探求Ⅰ」成果報告会

ハディ ハーニ(商学部特任講師)

 

2026年度春学期の特別テーマ実践科目A「イスラーム世界実践探究Ⅰ」では、イスラームを一枚岩の宗教としてではなく、信仰・歴史・経済・生活が交差する世界として捉えることを目標に、基礎的な学びを積み重ねました。授業の軸は中村廣治郎『イスラム教入門』の輪読で、教義や法、共同体の理念を毎回丁寧に読み解きました。あわせて映画『ザ・メッセージ』を視聴して初期イスラームの歴史的情景をつかみ、東京ジャーミイを訪問して礼拝空間やムスリム・コミュニティの営みに直接触れました。学内の明大マートではムスリムフレンドリーな食品を探し、原材料表示や認証マークを手がかりに、日々の買い物が信仰の実践と結びついていることを体感しています。

学期末には、各自が関心に沿って選んだ文献をもとに最終レポートを提出しました。思想史の領域では、ガザーリーの『誤りから救うもの』を読み、確実な知を求めた懐疑からスーフィズムへと至る思想的遍歴を整理した学生がいます。中世イスラーム世界の天文学がプトレマイオス体系を批判的に再構築し、コペルニクスへつながる土台を築いた過程を追った学生は、輪読で学んだ「理念と現実の乖離を埋め続ける共同体」という考え方と結びつけ、信仰と学問の関係を考察しました。

西洋のまなざしを問う研究も目立ちました。サザン『ヨーロッパとイスラーム世界』を読んだ学生は、接触が増えても理解が深まるとは限らず、知識がしばしば自己正当化に用いられたことに注目しています。2015年の難民危機以降の欧州で「リベラルな価値を守るためにイスラームを排除する」という逆説的な論理が広がった構造を分析した学生は、秋学期にはミナレット建設禁止や着衣規制などの立法を比較する研究へ進む予定です。鶴見太郎『シオニズム』を精読した学生は、東欧に起源をもつ運動の歴史的変容を整理し、秋学期にはパレスチナ人の歴史的経験と言説へと視野を広げようとしています。

経済・生活の領域では、商学部らしい問いが並びました。イスラーム金融の損益分配の仕組みやザカートの制度化を整理してSDGsとの接点を検討した学生、ムスリム観光市場の拡大とマレーシアの取り組みを紹介しつつ宗教実践の商品化をめぐる批判にも目を向けた学生、ラマダーン月が消費と広告のあり方をどう変えるかを探った学生がいます。明大マートでの体験が、こうした問いの下地になっていることがうかがえました。

アブダビのシェイク・ザイード・グランド・モスクを訪れた経験を出発点に、イスラーム建築の多様性と地域への適応力を論じた学生は、秋学期には日本国内のモスクが地域社会とどのように関係を築いているかを調べる計画を立てています。

春学期のレポートは、全体としてはまだ文献の整理が中心です。「調べ学習から研究へ」という課題を自ら言葉にした学生もおり、その自覚こそが秋学期の出発点になるはずです。秋学期は書評発表と中間報告会を重ね、各自の問いを文献調査やフィールドワークで検証していきます。春に培った基礎が、一人ひとりの研究としてどう実を結ぶのか楽しみにしています。

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