授業

2023.06.27

2023年度(春)ゲストスピーカーによる特別授業:葛西伸夫氏【テーマ:水俣病事件から近現代史をみる】

森永由紀(科目担当教員)

ゲストスピーカーによる特別授業について、以下内容で実施いたしました。

1.実施日

2023年6月20日(火)10:50 ~12:30

2.実施場所

駿河台キャンパス リバティタワー 1106教室

3.科目名

企業と環境問題

4.テーマ

水俣病事件から近現代史をみる

5.ゲストスピーカー

葛西伸夫 氏(水俣病センター 相思社)

6.実施内容

本学の政経学部を卒業された葛西氏は、学生時代に読んだ石牟礼道子の『苦海浄土』がきっかけで水俣病に深い関心を寄せるようになり、卒業後に会社勤務を経たのちにNPO法人・水俣病センター相思社に入った。1974年に設立された相思社は「水俣病を繰り返さない世の中をつくる」ことをめざして様々な活動を展開する組織であるが、葛西氏は水俣病事件の本質とは何かを問い、水俣病を近現代史の出来事のひとつとして歴史的分析を行っている。教室では、水俣・水俣病関連史と日本・世界の歴史を並べた大政奉還(慶應3年)から始まる年表を配布して講義をして下さった。

 創業者で電気工学の優れた技術者であった野口遵がイタリアから購入した技術であるカザレ―法を用い、水力発電で得た水素と、空気中に豊富にある窒素からアンモニア、それに硫酸を加えて硫安という肥料を作り、さらには窒素から火薬も作った日本窒素肥料株式会社(現・JNC)が、明治以降の富国強兵政策下での技術開発においていかに他社に比べて優位であったかが示された。また、植民地時代に朝鮮で大規模な河川改修を行って作った巨大な水力発電ダムにより、20~30戸程度の人家しかなかった寒村を、興南と呼ばれる人口18万人の工業都市に育て上げた様子が、貴重な写真と地図で紹介された。そこに関与した政治家やビジネスパーソンについても人物像とともにとりあげられ、植民地での開発の勢いがリアリティを持って伝わってきた。

 終戦後に引き揚げてきた技術者たちが興南の繁栄を水俣で再びと夢見て、電気化学に固執するあまりに、石油化学に移行する時代の流れに乗り遅れた焦りが、工場の杜撰な操業にもつながり、ヒット商品であったビニールの可塑剤であるオクタノールの量産の際に有機水銀の水俣湾への大量放出をもたらした。水俣病の原因は地元の熊本大学の研究により1959年に明らかになっていたが、有機水銀を含む工場排水が止められたのは千葉県に石油化学工場が作られ、資本蓄積の終わった1968年であった。

 明治以降の近代化の歴史の中に水俣病を位置づけてみると、「一企業が起こしてしまった公害」に留まらず、戦争による特需で発展する技術が環境汚染(公害)事故につながり、それらが相互作用している中で起きた出来事であり、見えない「水俣病」が他にも無数にあることを指摘された。

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