授業

2024.09.19

特別テーマ実践科⽬A「SDGs調理科学」成果報告会

浅賀宏昭(担当教員)

野生動物の個体数は天敵と食料不足によって抑えられる。天敵のいない私たちも食料不足に陥れば、人口増加は抑制されるが、飢餓に苦しむ人が多く出る。それは何としても避けるべきである。この半世紀の間、人口の増加以上に食料生産量が増加したことが判っている。しかし食料の増産はあと数年でできなくなるとの予想がある。ゲノム編集などのバイオテクノロジーで新品種を開発できたとしても、農地を増やすことはこれ以上できないからである。

現代の食料問題の特徴は「先進国の飽食、途上国の飢餓」とも表現される。先進国では美味しい肉が多く食べられ、その肉を得るために大量の穀物が飼料に使われているために、途上国の人たちは食料不足で飢餓に苦しむのである。仮に先進国の私たちが肉の代わりに穀物を直接食べるならば、より多くの人に食料を分け与えることが可能になると計算でき、この問題は軽減されるだろう。

穀物の栄養は肉には劣るが、大豆だけは肉に匹敵するタンパク質を含み、しかも健康維持に貢献する機能性成分も多く含むという特徴がある。そこで、本授業は2020年度からSDGsの目標2の「飢餓をゼロに」、すなわち食料問題の解決につながると期待される「大豆を主要材料とした新メニュー」の研究開発をテーマに開講してきた。

2024年度春学期の受講生は2年生3名で、まさに少数精鋭で活動した。5月までに、世界の食料問題とその解決法、大豆の栄養や機能性、おいしさの生理学、さらに調理科学の基礎や関連技術、官能評価の方法、商品開発の方法などについて集中的に学び、この研究の意義を理解し必要な手法を身につけた。そして、さまざまなメニューに挑戦した結果、官能評価等の成績が最も良かったのが、油揚げを使ったロールカツであった。そこで、成果報告会ではこのメニューの開発について、最終授業日の717日にまとめて発表した。

開発のコンセプトとしては、ターゲットを設定し、そのターゲットに望まれるメニューを検討するという方向で進めた。すなわち、(1)肉を食べることを控えるヴィーガンやベジタリアンのF1層(2034歳の女性)を主なターゲットとし、(2)肉料理のような食べ応えとジューシーさを持たせて満足感が得られるよう、油抜きした油揚げを裏返ししてから調味液に漬けてから巻いて揚げることにした。栄養については、コレステロールを含む動物性脂肪の含有量はゼロだがタンパク質は十分に摂れるという、普段から肉を食べるが健康を意識している一般の消費者にも訴求性があるように工夫した。さらに、栄養バランスと彩りがより良くなるように、玉ねぎ、アスパラガス、赤パプリカなどを巻くこととした。なお、販売チャネルは、キッチンカ―、スーパーの惣菜コーナーなどを想定して取り組んだ。

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油抜きした油揚げを裏返しして(左)、調味液に漬け(中)、野菜を芯に入れて巻いて楊枝で固定したところ(右)。(いずれも浅賀撮影)

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バッター液に浸けた後、パン粉を付けてからフライヤーで揚げて(左)、盛り付け時に切って断面を見せたところ(右)。(いずれも浅賀撮影)

官能評価(5段階評価;満点=5.0点)は、3種類を相互に比較する形で行った。油揚げが調味されているので、調味料はつけずに、またはソースをつけて食べて評価した。食感はアスパラ巻(4.6)、風味は玉ねぎ巻(4.3)、外観は赤パプリカ巻(5.0)が、それぞれ評価が最も高く、総合評価としてはアスパラ巻が最も高い(4.0)という結果であった。 

以上のように、今回、肉などの動物性材料を全く使わずに食べ応えのある揚げ物のメニューが実現できた。3種類の野菜を巻くことで3色が揃い、見た目も良く、栄養のバランスの面もより良くなったと考えられる。巻く野菜は他のものでも代用できる。この点は既にインゲン、にんにくの芽、ヤングコーンなども試験的に使用し確認済みである。

食べ方については、甘いソースや辛いソースを合わせても美味しくいただけることも確認した。このことから、ターゲットのF1層以外の女性、子供から男性にも受け容れられるだろうと考えた。

競合する市販品として、例えば豚肉ロールカツのような商品があれば対照として比較分析ができたが見つからなかった。インターネットではやや類似したメニューとして「豚バラの大葉油揚げロール」が紹介されており、こちらは1個あたり材料費が300円とあった。これに対し、今回開発した油揚げロールカツでは、いずれも1個あたり80円台と計算された。これらより販売価格についても検討すると、原価50%でもアスパラ巻168円、玉ねぎ巻162円、赤パプリカ巻176円でそれぞれ可能という結果となった。市販の揚げ物類と比較しても高くないので消費者に選んでいただけると思われた。

この油揚げロールカツに欠点があるとすれば、湯抜きしてから裏返しした油揚げで野菜を巻くという調理の手間がかかる点だと考えられる。この欠点は残念ながら今後の解決すべき課題として残った。

以上のように、油揚げと3種類の野菜という廉価な材料の組み合わせを工夫することで、美味しくて食べ応えのある油揚げロールカツを完成させることができた。3色で見栄えよく、栄養バランスの面でも優れていると考えられるこのメニューは、性別問わず、年齢的にも幅広い層に受け容れられるポテンシャルもあると結論した。

最後に、本授業の実習では自然科学実験準備室の村野雄飛さんと安齋東さんに、準備や片付けでたいへんお世話になった。さらに今年は調理技術上のサポートもしていただいた。担当者として心より御礼申し上げる次第である。

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