授業
2024.11.19
マーケティング管理論におけるHonda近藤孝氏の講演
加藤拓己(担当教員)
2024年11月18日に,加藤拓巳専任講師の担当するマーケティング管理論にて,本田技術研究所(Honda)の近藤孝氏に,「ビジネス現場のマーケティング実践とキャリア」をテーマに講演して頂いた。
<講演概要>
- Hondaはいつまでも自分の夢を語ること,夢を目指して価値づくりに取り組むことを重視する会社である。なぜなら,それが原動力になる。例えば,創業者の本田宗一郎は,妻のために商品づくりをしたことが同社創業のきっかけである。このように,顧客の顔を思い浮かべながら,価値を考え,形にしていく会社である。それはマーケティングの環境として優れている。
- Hondaでは,研究所は「どんなものが人に好かれるか」を研究する場所である。研究者は"技術バカ"になってはいけないという強い信念がある。しかし,技術に日々向き合っていると,どうしても"技術屋"に陥ってしまうリスクがあるため,顧客の価値と向き合う姿勢を持ち続ける必要がある。例えば,「Noise & Vibration (NV)のエンジニアは,騒音に気づかれないことが重要だから,人から評価されないことが最大の評価」と部門内では言われていた。そこで,音は消すことだけが価値ではなく,心地よい音を生み出すことが価値と考え,それを実証した。その結果,2024年に発表した新しい電気自動車で,エンジンサウンドをあえて付加した設計が発表されるに至った。これは,固定概念にとらわれずに,エンジニア自身も顧客にとっての価値を企画する力の重要さに気づく1つのきっかけとなった。
- 企業で仕事として従事してきた成果をまとめ,博士号を50歳に取得した。自身の専門性を客観的・対外的に実証する方法として,博士号は大きな強みになる。文系でも取得可能な学位であるため,1つのキャリア構築の手段としてお勧めできる。
- 自分自身のキャリアをつくるには,会社を選ぶのではなく,職能・スキルを選択すべき。「なんでもやります」というガッツだけでは,プロフェッショナルにはなりにくい。ただし,「できるけど,嫌いなこと」からキャリアが始まったとしても,目の前の課題に狂ったように取り組み続けると,スキルが開発されていき,「できるし,好きなこと」になることもある。よって,自分の年齢や状況を客観的に分析しながら,戦略的に職能を勝ち取っていくことが必要である。
- 企業が新卒に求めているのは,一緒に難題を乗り越えていける仲間。よって,難題に挑戦してきたプロセスを見極めている。どんな問題に直面し,どんな仮説を立て,どんな結果になり,どんな考察をしてきたのか?そこを詳しく知りたがっている。どんなテーマでもいいから,難題に対して自分自身で試行錯誤した経験を積んで欲しい。
- 渋沢栄一が言うとおり,自分で変えられないのは宿命。自分で変えられるのは運命。不平等な宿命にとらわれずに,自分自身で運命を変えていくべき。将来のことは誰にもわからないので,どうなっても悔いが残らないように,周囲の意見ではなく自分で意思決定する方が良い。
<講師プロフィール>
近藤孝
(株)本田技術研究所 チーフエンジニア。エンジンや自動車、船外機などの振動・騒音やサウンドの研究開発に従事。工学博士。