授業

2022.09.01

特別テーマ実践科目 「SDGs調理科学」成果報告

浅賀 宏昭(担当教員)

 2020年から春学期に開講してきたこの科目では、SDGsの目標2「飢餓をゼロに」、すなわち食料問題の解決につながると期待される「大豆を主要材料とした新メニュー」の研究開発を目指している。2022年度の春学期は、1年生1名、2年生7名の履修生が、オリジナリティのあるメニューの開発に取り組んだ。

 5月の第3週までに、オンラインでの授業内容の配信も併用することにより、世界が直面している食料問題とその解決法、大豆の栄養学や期待される機能性、おいしさの生理学、さらに調理科学の基礎や関連技術、官能評価の方法などについて、概観できた。続いて、新型コロナウイルス感染症対策をしながらの実習に入ることとなった。感染リスクが懸念されたが、食中毒の原因となる細菌やウイルスの食材への混入を避けるための操作は、そのまま感染症対策になるものも多い。そこで、感染リスクが最も高いと思われる試食や官能試験のマスクを外した状態では話をすることは極力避けるように指導し、授業後にOh-o!Meijiシステムで意見等を提出してもらうようにした。この方法は、そのまま記録が残るというメリットもあり、たいへん有効であった。

実習における調理作業(左)と試食・官能評価の準備(右)のようす(いずれも浅賀による撮影)

 さて、今年度も商品開発経験が豊富な塚原正俊先生(株式会社バイオジェットCEO・千葉大学非常勤講師)に外部専門家支援委員として講義形式の授業をお願いし、6月29日(水)に実施した。昨年度よりもやや遅いタイミングとなったが、実習疲れの出たころに、商学部生の興味ある実践的な内容(新メニューのターゲットや販売チャネルの想定などを)の授業を対面で実施できたためか、履修生の反応も非常に良かった。

 7月の実習では、塚原先生の指導内容を踏まえ、試行錯誤しながらメニューを絞り込んだ。狙い通りの結果が得られないことが多かったが、新しい味の発見もあった(後述)。今年は3年目ということもあり、昨年まで困難だったヴィーガンへの対応も考慮に入れて、3種類のメニューの完成を目指した。そして、夏休みに入った8月の第一週に官能評価まで実施できた。

 完成を目指したのは、「大豆ミートタコス」、「豆腐コロッケ」、「(ミートフリーの)ロールキャベツ」であった。履修生は3つの班に分かれてこれらを調理し、官能評価のパネリストには調理を担当しなかったメンバーにお願いした。その分析結果を踏まえて812日(金)の14時からZoomにて成果報告会を迎えた。以下に、発表された各メニューの概要を述べる。

(左から)「大豆ミートタコス」(梶川さん撮影)、「豆腐コロッケ」(神山さん撮影)、「(ミートフリーの)ロールキャベツ」(勝又さん撮影)

 「大豆ミートタコス」は、ターゲットにヴィーガンを含むベジタリアン、学生、健康志向の若い女性、ファストフードが食べたいが健康面が気になる人を、販売は小売店やキッチンカーなどをそれぞれ想定して開発したもので、彩りが良いメニューとなった。大豆ミートの欠点は、豆の匂いが残りやすいことだが、カレー粉を使ったマスキング効果によってこの問題を解消し、しかも食欲をそそる香りと辛味のある一品となった。官能評価における総合評価(5点満点)も4.9で高い評価であった。ただし販売を想定した見映えのする巻き方の工夫と、原価(128円)を抑えるという課題が残った。

 「豆腐コロッケ」は、「豆腐を使ったナゲット」としての初回の試作で想定イメージから程遠いものが出来たというエピソードで開発がスタートした。意外なおいしさの発見はあったが、歯ごたえが全く足りなかったのだ。「コロッケみたい」という誰かのつぶやきで、急遽、メニューの看板の方を変えたのである。ただし、健康に気を使っている女性、子どもの健康が気になる親、部活終わりの学生やトレーニング後の人などを想定ターゲットとしてそのままにしていたことは、やや問題であった。コロッケへの変更でより高カロリーになったことから、ターゲットから考え直すべきと報告会でも指摘された。官能評価では香りの評価にばらつきがあり、平均値も3.6でやや低く、好みに個人差が出やすいメニューであることが推測された。コロッケとしては原価(39円)が高めという問題点もあった。

 「(ミートフリーの)ロールキャベツ」は、ターゲットとして2030歳代の健康感覚があり外食指向のある独身OLを想定して開発された。販売は、喫茶店などでのセットメニューの主菜の形である。官能評価では、どの項目も概ね高得点であったが、香りの評価が3.0であった。この理由は、自由意見欄の記載から、調味料として用いた昆布茶の香りが影響していると考えられた。顆粒状の昆布茶はヴィーガン向けのレシピではよく使われるが、使用方法が課題として残ったようである。やや高めの原価(197円)も、喫茶店での提供であれば問題ないという主張は、それを想定した盛り付けが示せていると説得力が増しただろう。

Zoomでの成果報告会で(上段左端が塚原氏、その右が浅賀)

外部専門家支援委員の塚原正俊先生には、対面授業のほか、Zoomでの成果報告会においても建設的で的確なコメントを多数いただいた。自然科学実験準備室の大内さんと村野さんには、実習において感染症対策も含む全面的なサポートをしていただいた。担当者として心より感謝申し上げる次第である。

MENU